あかるい職場応援団
厚生労働省

世界一のサービス品質と安心して働ける職場環境の両立を目指して

世界一のサービス品質と安心して働ける職場環境の両立を目指して

社名:日本航空株式会社
業種:定期航空運送事業及び不定期航空運送事業/航空機使用事業/その他附帯する又は関連する一切の事業
従業員数(2023年3月現在):36,039人(グループ従業員数)

取組のきっかけ - サービス品質の維持・向上の一環として取組をスタート

弊社では、お客さまへの寄り添いをベースにサービス品質世界一を目指し、日々の業務にあたっています。しかし、一部のお客さまから合理的な範囲を超えた言動や要求が繰り返されることで、従業員が疲弊してしまい、生産性の低下につながるケースもありました。これは、弊社だけでなく、航空業界全体で問題となっていました。

そうした状況の中、令和2年の厚生労働省の告示(※1)で、従業員に対する顧客等からの著しい迷惑行為(いわゆるカスタマーハラスメント)に関して事業主が適切に対応することが望ましいと示されました。これをきっかけに、弊社としても、従業員が安心して働ける職場環境を実現することが、最終的にはお客さまへのサービス品質向上にもつながると考えるようになり、より本格的な取組を始めました。

取組内容① - 既存のハラスメント対策からカスハラ対応へと拡大

取組を本格的に開始した当初は、社内にカスタマーハラスメントという言葉は浸透しておらず、実態を把握するため、お客さま対応を行う部署を中心に全社的なアンケートを実施しました。その結果、部署ごとに発生状況は異なるものの、お客さまの暴行、セクハラ、暴言、侮辱、長時間の拘束、虚偽の発言といった対応に従業員が苦慮していることが改めて分かりました。

そこで、会社内に分科会を組織し、厚生労働省で発表されたマニュアル(※2)を参考に自社でのカスタマーハラスメントの判断基準を作成しました。そして、既存のお客さま対応マニュアルやガイドラインの内容に追記する形で、社内規程を策定しました。これら社内の対応方針を取り纏めるにあたっては、サービスの企画部門や対応部門、法務部などの複数部署に加え、外部の弁護士の意見も取り入れています。現在でも、月1回の頻度で事案を共有して対応を検討する場を設けて、カスタマーハラスメント対策を推進しています。

弊社では、お客さまに合理的な範囲を超えた言動や要求が見られた場合、現場にいる複数人の視点で判断し、口頭でお伝えするようにしています。口頭でお伝えしても改善を期待することが難しい場合は、本社の担当部門と連携して、その後の対応を考えます。言動や要求が悪質だと判断される場合や何度も繰り返される場合には、最終的に書面で通知することもあります。実際に事案が発生した場合は、言動や要求の内容やその頻度から一律にハラスメントの該当基準を設けるのではなく、お客さまの利用状況や対話を経た様子などを考慮して、社内規程を重視しながらもケースバイケースで慎重に判断しています。

取組内容② - 研修内容に取り入れて従業員への周知を行う

従業員に対しては、カスタマーハラスメントに関する会社方針を周知し、具体的な対応ノウハウを伝えるべく、研修を実施しています。研修は、弊社で積み上げてきた日々のレポートから実際にあった事例を参考にしながらお客様サポート室で教材を作成し、既存の研修の枠組みに取り入れる形で行っています。全社員を対象とした講義形式での研修のほか、管理職を対象としたグループワークで、ハラスメントに該当する事例や社員としての心構え、お客さまへの対応について伝えています。

研修の様子

取組の効果 - 会社の対応が、従業員の安心やお客さま自身への気づきに繋がる

弊社では、日頃からお客さまに寄り添ったサービスの提供を心掛けているため、従業員の中には、過剰なお客さまの言動や要求に対しても、はっきりNOとは伝えられない雰囲気がありました。そのため、従業員には、「お客さまからの過度な言葉や行為によって怖い、辛いと感じた際にはその気持ちを表現してもよい」と伝えています。会社が従業員を守る姿勢を明確にすることで、職場における安心感、働きやすさにつながっていると感じますし、弊社の従業員が自分の状況や気持ちを冷静に伝えて対応することで、お客さまにおいてもお気づきいただけるきっかけになると考えています。怒鳴っていたお客さまが、弊社の従業員の対応で冷静さを取り戻し、最後には自分が悪かった…とお声がけくださるケースもございました。取組によって、従業員の安心やお客様自身への気づきに繋がっていると感じています。

今後の課題と展望 - お客さまの声を謙虚に受け止めつつ毅然と対応することの難しさ

お客さまの声は、本来サービス品質向上につながる欠かせないもので、会社として耳を傾けるべきものが非常に多いという思いは常にあります。一方で、弊社の不手際に対してお客さまの声をいただく場合でも、過度な言動や要求へとつながった場合は、ご指摘を謙虚に受け止めつつも、従業員を守るためには毅然と対応することが必要であり、その線引きの難しさを感じながら日々取組みを行っています。

このように、カスタマーハラスメントの取組を進めることは企業にとって慎重を要することですが、厚生労働省の指針や対策企業マニュアルの公表といった行政の取組が推進力となりました。また、業界団体である定期航空協会を通じて他事業者との情報交換を定期的に行い、足並みを揃えて対応方針を発信することで取組を進めることができました。

今後も行政の取組などを通じて世の中の流れが進み、様々な業界でカスタマーハラスメント対策が講じられることで、航空業界および弊社の取組もさらに進みやすくなり、結果としてお客さまとより良い関係性が築けるようになると考えています。

(※1)https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000605661.pdf
「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号)【令和2年6月1日適用】」

(※2)職場におけるハラスメントの防止のために
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/seisaku06/index.html

厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000915233.pdf
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001070520.pdf

≪ 会員の声を聞いて、カスハラ対策の取組を始めました  |  取組のきっかけはSNSでのつきまとい行為 ≫