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厚生労働省

トップの意識の高さからマニュアル策定やHPへの対応方針を公開

トップの意識の高さからマニュアル策定やHPへの対応方針を公開

企業名:A病院
業種:医療・福祉
従業員数:約1,000名

取組のきっかけ・経緯 ~トップの意識の高さからマニュアル策定やHPへの対応方針を公開~

当院では、これまで件数こそ多くはありませんでしたが、患者やその家族によるクレームや迷惑行為は発生しており、医療業界におけるカスタマーハラスメント、すなわちペイシェントハラスメント(以下“ペイハラ”)として重要かつ深刻な問題として捉えていました。

そのため、当院の理事会ではかねてよりペイハラ対策の必要性について議論されることがあり、患者やそのご家族に対して正しい医療・治療をするために守って欲しいという思いから当院HPにおいても平成29年から“患者やその家族による迷惑行為に関する対応方針”を公開してきました。また、当初から院内で特にペイハラに対する高い問題意識をもっていた理事が、自らの経験を踏まえてペイシェントハラスメントに関する対応マニュアルを策定し、HPにもマニュアル提供に関する案内を掲載しています。

こういった取組の中で、当院に勤務する従業員の相談先も必要となっていたことから、当初は患者向けに開設してきた相談室を患者と従業員の相談窓口として統合し、2023年4月に患者相談室が発足し、これを機にペイハラの取組が本格化しています。

具体的な取組の内容 ~患者相談室の主体的な情報収集、社外への積極的な情報発信を進めています~

① 相談内容に関する情報収集・共有について

相談対応を進める上での課題として、現場担当者から相談室に直接相談が持ち込まれず、現場の所属長で対応しているケースが多かったため相談室が介入しづらいことがありました。また、患者相談室が発足したばかりということもあり、患者相談室とは異なる相談窓口に相談が持ち掛けられることもありました。

そのため、週1回程度、患者相談室として相談者との顔合わせをかねて現場への巡回を行い、現場環境の確認や担当科長等へのヒアリングを実施したり、その他日々の情報交換によって持ち掛けられた相談には双方で意見を出し合う等、簡単な協議をするようにしています。

② 事実確認・ハラスメント判断、相談事案への対応について

ペイハラに該当するか否かの判断については明確な基準は設けていませんが、患者・家族からの相談内容のみで判断するのではなく、現場スタッフからも現状を確認するなど、双方から事実確認を行うことを徹底しています。その際、双方の言い分に齟齬が生じていることはないか、相談・クレームの原因は何かを確認するようにしています。これまでのところペイハラに該当する事例はなく、医療者側の接遇問題や説明不足が原因とわかることも多く、再度患者や家族へ説明する/接遇方法を見直すことでクレームを再発させずに問題解決に繋げています。

また、月1回は相談事案の検討会を行い、丁寧に介入する必要がある事案を判断しています。慎重を要する事案については、患者相談室が単独で動くのではなく、担当する所属長と協議をしながら情報をまとめて院長に報告して指示を仰ぎ、医療安全センターと連携して適宜対応を協議しながら対応するようにしています。

③ 院外への情報発信(ペイハラ対応方針等の公開)

当院HPでは、ペイハラに対する対応方針を公開しており、窓口への連絡を通じて外部の医療機関にマニュアルを提供する等の取組も行っています。これまでも複数の医療関係者から提供を求められて対応しており、他医療機関とのペイハラ関連情報交換のきっかけともなっています。

また、院内においても1階受付のフロアや外来受付や手術室、緊急病棟、ICU等といった、来院者の目につきやすい場所に方針を掲示し、患者やその家族に直接口頭で説明しにくい内容も視覚に訴えることで効果的な案内をするようにしています。

院内の患者様へのご案内

④ 院内での研修・教育の実施

その他の取組みとして、一次対応をする担当者の所属長等には院内向けのクレーム対応研修を、看護師には接遇に関する教育を行う等、ペイハラへの対応・対策の周知啓発を進めています。特に、患者からの苦情の中には医療提供側の対応不備によるものも見られることから、接遇を見直すことでトラブルを軽減させていきたいと考えています。

⑤ 院内での記録、情報伝達について

ペイハラ対応のための特別な情報伝達用フォーマット等は用意していませんが、普段から利用している患者相談シートへ記載し、患者との対応記録としてカルテに要約のみを書く等して現場の実務に即した方法で情報を記録し、収集したデータを関係者のみが閲覧できるようにしています。

記録する内容としては、日時、担当者名、トラブル内容、その対応結果等が主なもので、行為内容に応じた組織内の情報共有の範囲、対応状況の経過、患者のご家族の情報などを記載することもあります。

取組の成果、得られた副次的効果

取組を進めたことによる副次的効果として、医療現場の管理者から患者相談室の管理者への相談が増えたことで、各管理者間の情報共有等につながっています。

前述のように、週1回程度巡回を行って現場環境を直接確認したり、担当院長にヒアリングを行ったりしていることで現場とのコミュニケーションが円滑になったと感じています。現場に直接足を運ぶようになったことで、これまで把握できていなかった状況を把握することができるようになりました。ただ、現時点でも、どうしても部署内で埋もれている事象もたくさんあるように感じており、今後継続的な取組や改善を進めて行く必要があると考えています。

また、前述のように取組を外部に発信することで、同規模病院と関わる機会が増えており、今後も情報を共有するきっかけに繋がることを期待しています。

取組を進めるにあたっての工夫・苦労

患者相談室の設立当初は、患者からの相談窓口対応で苦情を聞くことが主な業務であったところから急遽ペイハラ対応まで役割が拡大し、相談室のメンバーは何をすればよいか分からない状態となりペイハラ対応を進める上では苦労しました。

幸いなことに、相談室が医療現場と同じ建屋内にあったことから、設立当初から積極的に現場に足を運ぶことで情報を収集し、現場職員の声を吸い上げる工夫をしていました。

今後の展開(医療提供側のサービス品質向上を図ることでクレーム自体を減らしたい)

現時点では患者相談室の対応は情報収集が中心で、患者相談室にどのような情報が集まり、どのようなトラブル事例が起きているかを従業員全体へ周知があまりできていないことを課題と感じています。そのため、今後はヒアリング等を通じて得られたトラブル事例をマニュアルに組み込んで改訂を進める等、ペイハラ関連情報の周知を積極的に進め、当院全体の意識を変えていきたいと考えています。

また、ペイハラは本来、患者やその家族による著しい迷惑行為を指していますが、相談室に実際に上がってくる苦情の中には医療提供側の対応の不備が原因であるものも多いと感じています。

ペイハラは病院側の対応の悪さをきっかけに苦情に発展している場合もあり得ることから、その根本にある医療提供側のサービス品質を改善していくことで、クレームの発生自体を減らし、より良い医療サービスの提供を実現したいと考えています。

以上

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