社員の健全な業務を守るため、カスハラ対策の取組を始動
企業名:ヤマト運輸株式会社
業種:運送業
従業員数:約18万人
社員の健全な業務を守るため、カスハラ対策の取組を始動
取組のきっかけの一つは、当社のコールセンター(お客様からのご相談を受け付ける部署)に、同じお客様から何度も苦情をいただいたことでした。苦情の内容は「(コールセンターの一次対応者の)態度が悪い」、「(一次対応者の)フルネームを教えろ」、「お前は向いていない。やめろ」、「まだやめていないのか」等の発言を伴うもので、繰り返される暴言によって、オペレーターが恐怖で委縮してしまいました。さらに、対応者が大変まじめな性格であったこともあり、クレームの内容を真正面から受け止めてしまったことで、「私の対応の仕方が良くなかった」、「私が会社に迷惑をかけてしまっている」と思い込み、約1か月間、コールセンター業務への復帰が困難な状況に陥りました。
このようなトラブルを踏まえ、会社として、カスハラに対する指針・考え方を整理して社員に伝える必要があるという意識が高まり、さらに経営層からも「社員の健全な業務を守らなければならない」という一言があったことから、カスハラ対策の取組が本格的に始動しました。取組は、お客様サービスセンター(従業員からお客様対応に関する相談を24時間受け付ける部署)が中心となって進めました。
取組を始めるにあたり、まずコールセンターのオペレーター向けにアンケートを実施しました。その結果、オペレーターの約8割がカスハラと思われる被害に遭っていたという実態が明らかになりました。また、アンケートの内容からは、暴言・威嚇・脅迫をはじめ、長時間の拘束や執拗な個人情報の要求といった被害が発生していたことが確認でき、これまでお客様の理不尽な発言・要求に対し、社員が我慢していたという実態も浮き彫りになり、「会社として取組を進めなければ社員を守ることはできない」、とより一層意識が醸成されました。
実務を想定した「カスハラ発言リスト」や「文言集」を盛り込んだ対応マニュアルを作成・周知
当社では、一般社員(コールセンターのオペレーター、事務職等)向けの研修で、当社で作成した「カスタマーハラスメント対応マニュアル」の内容を解説しています。
本マニュアルは、コールセンターで使用することを念頭に2020年10月に作成したものです。作成にあたっては、弁護士に相談し、さらに過去の弊社のクレーム情報や書籍、労働施策総合推進法に基づく指針等を参考にしています。
本マニュアルは、「カスタマーハラスメントの定義と判断基準を会社として設けて正しく対応し、お客様の著しい迷惑行為から社員を守ることを目的」とし、「(当社の)対応者への理不尽な個人攻撃には、会社として毅然とした態度で対応する」方針を掲げているもので、「カスハラ発言リスト」や「(カスハラ行為を伴うお客様への対応時に参考にできる)文言集」等から構成されています。
対応マニュアル ~カスハラ発言リストでカスハラかどうかを判断~
「カスハラ発言リスト」には、「カスハラ発言」と「カスハラの可能性のある発言」に分けて、それぞれ発言の具体例と対応フロー(一次対応者の対応手順や管理者と電話交代するタイミング等)を示しています。当社での「カスハラ発言」は一度でも発言があればカスハラと判断する用語・フレーズ(例えば、「死ね」、「殺すぞ」等)と整理しており、このような発言があった場合、一次対応者は即座に管理者に電話を替わるフローにしています。その一方で、「カスハラの可能性のある発言」として、繰り返し発言があった場合はカスハラであると判断する用語・フレーズ(例えば、「あほ」、「お前じゃ話にならない」等)についても整理しています。このような発言を受けた場合、一次対応者は一度、その発言の対象が自身に向けられたものなのか問いかけることにしており、これによりお客様がクールダウンされた場合は通常の対応を継続し、それでも収まらない場合は管理者に電話を替わるフローにしています。
対応マニュアル ~お客様へのお伝えの仕方に悩んだ時の文言集~
電話対応中にお客様への伝え方に悩んだとき、参考にできる情報として、「文言集」を掲載しています。例えば、管理者に電話を替わる際のフレーズとして、「恐れ入りますが、上席にお電話を代わらせていただきます。」といった対応例なども掲載しています。
個人を傷つけるような発言をされたお客様に対しては、主観的・客観的の両面で考えを伝えるようにしています。例えば、一次対応者は「脅されているようで怖いです」、「怖くて話が伺えません」等、自分を主にした気持ち、思いをお客様に対して正直に伝えて相手に冷静になってもらい、それでも状況が改善されない場合は電話を替わった管理者(役職者)が、「あなたの行為は〇〇といった点でカスハラです」という旨を客観的に、第三者の視点から伝えることにしています。この二段構えの対応により、お客様にカスハラをしていたのだと自覚していただけたケースが多くあると感じています。
専用相談窓口を活用したお客様対応に関するOJT
マニュアルには専用の相談窓口の連絡先を掲載しています。同連絡先は社内イントラ等で周知しており、いつでも社員の目に入るような形にしています。社員からお客様サービスセンター(専用の相談窓口)にカスハラに関する相談の電話が入った際は、直接の対応や、ただ指示を出すだけでなく、「この場合はこう考えてみては?」といったレクチャーをOJT的に行うこともあり、相談者のカスハラに関する判断力の向上に繋がっているとも考えています。同時に、カスハラ判断について、誤った認識や判断とならないようアドバイスもしています。
どのコールセンターでも対応できるようにカスハラ情報は全社で共有
カスハラ行為を伴うお客様の対応を実施した際は、必ずレポートを作成し、社内データベースに登録するようにしています。レポートには、問題があったお客様の情報(連絡先や発言内容等の詳細)を記録し、必要に応じて、今後連絡があった際の対応方法についてお客様サービスセンターから案内しておくこともあります。当社のコールセンターは全国各地に点在しておりますが、データベースの内容は全社で共有して確認することができるため、お客様からの連絡に対して、どのコールセンターでも適切に対応できる仕組みとなっています。
当社では、カスハラに対しては会社として対応することを方針に据えています。会社としての対応がぶれないようにするため、本社が中心となって動くこと、また上記のように社内で情報を共有することが非常に重要だと考えています。
社内にカスハラという概念が浸透しつつあることが取組の成果
カスハラという用語・概念が社内に浸透していることが本取組の一つの成果だと捉えています。これまでは社員がクレームの内容を正面から受け止めてしまい、たとえ社員に非がなくても必要以上に自分を責め、悩みを抱え込んでしまう者もいました。しかし、現在は経営層をはじめ、社内全体の意識が少しずつ変わりつつあり、カスハラ行為をされるお客様に対しては徐々に毅然とした対応ができるようになったという実感があります。