【第1回】自分も相手も尊重する“相互尊重”コミュニケーション
職場でのコミュニケーション、気持ちよく図れていますか?
言いたいことを、過度に遠慮することなく声に出せ、相手の話を肩肘張らずに聴くことができる-コミュニケーションがうまく図れると、仕事がスムーズに進み、職場が楽しい場所になりそうですね。
私は、ほぼ毎日、様々な企業で、ビジネス・コミュニケーションの研修を行っています。受講者の課題は、「遠慮して思い通りにモノが伝えられない」、あるいは、「必要以上に強く言い過ぎてしまう」。事例は両極端です。引き過ぎても、強過ぎても、話は前に進みません。自分がストレスを感じるか、相手にストレスを与えるかでは、職場がストレスを生む場所になってしまいます。
自分も相手も尊重しながら、きちんと主張できる-「相互尊重コミュニケーション」を心掛けてみませんか。「発展的で協調的な自己主張」のスキル向上が気持ちのよい職場づくりの一つの答にならないでしょうか。
発展的-すなわち、次につながる、明日につながるということ。相手を論破しても意味がありません。無理やり自分の考えを押し通すような主張ではうまくないですね。ミーティングで、「今日こそは言ってやった」と一瞬すっきりしたように感じても、次のミーティングが開きにくくなる。これでは、仕事をすればするほど、キャリアを重ねれば重ねるほど自分の味方を減らし、フィールドを狭くしてしまいます。正しい自己主張は、「次に、明日につながる」のです。
協調的-これは、遠慮するとか、相手に合わせ過ぎることとは違います。相手の知っている単語が使える、相手の興味のある角度から話ができる、すなわち、一歩相手に近づいて、聞いてもらえる話ができるということです。どんなに活舌(※1)良く、理路整然と話しているつもりでも、相手の知らない単語や相手の興味から外れた話では届きません。すがすがしい自己主張は、「相手に聞いてもらえて、理解されて、アクションにつながる」のです。
したいことはしたいと言ってみよう、したくないことはしたくないと言ってみよう、ただしそれが相手を傷つけたり、不要にその場を乱したりしない限りは。-ごく当たり前で簡単なことのようですが、これが、実際の仕事の場面で、目の前に具体的な誰かが現れるとなかなか難しいものですね。
「こんなこと言ったら悪いかなぁ」と遠慮して、遠回りに言って、誤解を招いたり、「相手のため!」と思って進言したつもりが、何だか、自分勝手な印象になってしまったり。毎日、小さな後悔を積み重ねていないでしょうか。
コミュニケーションのとり方を振り返ってみましょう。コミュニケーションのタイプには、大きく分けて3つあります。ついつい偏りがちな、相手否定(攻撃型)と自分否定(受身型)の2つと、発展的で協調的な、相互尊重(積極的)のコミュニケーションです。 3つのタイプを比較してみましょう。
意見を述べる時 | 相手への フィードバック |
聞くとき | 口ぐせ | |
---|---|---|---|---|
相手否定 (攻撃型) |
「私は~」ばかり |
批判、否定が多い |
人の話を聞かない |
だいたい、だから |
自分否定 (受身型) |
「私は~」が少ない |
相手の反応を恐れて、 |
受身的な聞き方 |
すみません |
相互尊重 (積極的) |
適度な「私は~」 |
「行動」に対して建設的なフィードバック |
アクティブリスニング |
ありがとう |
「攻撃型」は、強引に相手からYESを奪おうとします。結果、今日の1勝は得られるかもしれないけれど、相手にいやな印象を残すので、次につながらず、正しい意味での連勝や全勝が期待できません。
「受身型」は、何でも相手に合わせ過ぎてしまうので、便利な人、簡単な人だと思われても、信頼や尊重にはつながらず、結果、いざと言うときに選ばれない対象になってしまいます。
「相互尊重」は、足して2で割るとか、中間的ということではありません。しっかり自分の意見は率直かつ明快に伝えるけれど、相手の話も聞く。結果、両者のアイデアや力の掛け算の成果が生まれます。相互の信頼関係も深まります。
相手に対する姿勢で言うと、攻撃型は、配慮も遠慮もない。受身型は、遠慮ばかりで、実は、相手に対する配慮に欠ける。相互尊重は、下手な遠慮はしないけれど、相手のこの先の行動に対する配慮がある。思い当たるふしがありませんか?
日頃のあなたのスタイルはどのタイプに近いでしょうか。きちんと発言できていれば、もっとものごとがスムーズに進んでいたはずだと感じる場面はありませんか。
コミュニケーションのスキルを磨いて、ミーティングなどでの発言力を増し、上司や後輩にきちんとモノが頼め、時にはNOも言える。お互いがきちんと伝えあえて、聞きあえれば、仕事の成果は足し算で終わらずに、掛け算の結果を生みだします・・そんな、仕事の実践力アップを目指しましょう。
※1 「活き活き話したとしても伝わらないこともあるという趣旨で「滑舌」ではなく「活舌」という書き方を採用しています。
著者プロフィール
大串 亜由美
外資系大手コンピュータ株式会社にて14年勤務後、コンサルティング会社勤務を経て、株式会社グローバリンクを創立。「国際的規模での人材活用、人材育成」をキーワードに、マネジメント、自己主張など、ビジネスコミュニケーション全般の、企業・団体研修、各種コンサルティングを手がける。