- 精神的な攻撃型
【第62回】
時間外労働時間だけでなく、上司による叱責も考慮して、業務起因性が認められた事案
亀戸労基署長事件
東京地判平20.5.19労経速2022号26頁
東京地判平20.11.12労経速2022号13頁
結論
労災保険給付の不支給処分が取り消された。
事案の概要
Xの夫であるAが、勤務していたB社での業務に起因して出血性脳梗塞を発症したとして、Xが亀戸労基署長に対し、労災保険給付を求めたところ、同署長は不支給処分をしたことから、Aからその地位を承継したXがその取消を求めた事案。
判決のポイント
(1)本件においては、前認定のとおり、本件疾病発症の6月前からのAの時間外労働時間は、1月当たり、約36.5時間、38時間、54.5時間、41.5時間、57.5時間、77.5時間というものであり、徐々に時間外労働時間は増加し、発症前1か月は、4月18日の徹夜作業も加わり、80時間近くに達しており、Aの時間外労働時間は、相当長時間のものであると評価することができる。
(2)このような時間外労働に加え、C部長は、Aに対し、1か月に2回以上、執拗に、かつ、数回は2時間を超えてAを起立させたまま、叱責しており、このため、Aは、肉体的疲労のみならず、心理的な負担も有したのである。C部長による叱責は、上記(1)の時間外労働により疲労を有していたと考えられるAに対し、一層のストレスを与えるものとなった。
(3)Aは持続性心房細動の状態にあったものであるところ、この持続性心房細動は自然経過で発生したものではなく、本件会社の業務上の負荷、特にC部長により頻繁に繰り返される執拗かつ異常な叱責によるストレスに加えて、4月18~19日の徹夜作業に伴うストレスを誘因として発生したものであり、これに伴い形成されたフィブリン血栓が本件疾病を発症させたものと認めるのが相当である。
したがって、本件疾病は本件会社における業務に起因して発症したものというべきである。
コメント
時間外労働時間だけでなく、執拗に、また長時間立たせたまま叱責したことなどを勘案して、業務起因性を認めた裁判例である。
業務起因性について、一審では否定されたが、二審では認められました。
一審は、C部長からの叱責について、執拗なものであったとしつつも、C部長の言動には暴力的なないしは名誉毀損的な範囲のものは認められないなどとして、上司による指導として通常想定される範囲を超える言動であったとは認められないと判断しました。これに対し、二審では、1か月に2回以上、執拗に、かつ、数回は2時間を超えてAを起立させたまま、叱責していたと事実認定した上で、肉体的疲労のみならず、心理的な負担も有すると判断し、判断が分かれました。
注意指導を行う際、執拗に長時間立たせたまま行うことは、パワハラに該当する可能性があります。
場合によっては、そのことが原因で労災になってしまうケースもあることに留意しましょう。
著者プロフィール
荻谷 聡史(おぎや さとし)
安西法律事務所 弁護士
2008年 弁護士登録