- 身体的な攻撃型
- 精神的な攻撃型
【第52回】
他の従業員からの暴行などが不法行為にあたると判断された事案
ファーストリテイリング(ユニクロ店舗)事件
名古屋地判平18.9.29労判926号5頁
名古屋高判平20.1.29労判967号62頁
結論
他の従業員からの暴行及びその後の会社担当者の発言が不法行為にあたるとして、慰謝料請求を認めた。
事案の概要
Y1社で店長代行として勤務していたXは、店舗運営日誌に、店長であるY2の仕事上の不備を指摘する記載をし、その横に「処理しておきましたが、どういうことですか?反省してください」と書き添えた。この記載を見たY2はさらし者にされたと感じ、Xに対し説明を求める中で、Xの態度に激高し、Xに暴力をふるった。
その後、Xは、Y1社の管理部長であるAに対し、Y1社における上記暴力事件の報告書の開示などを求め、Aとやり取りをしていたところ、その中でAは、XがPTSDないし神経症である旨の診断を受け、担当医から、被告会社の関係者との面談、仕事の話をすることを控える旨告知されていたことを認識しつつ、Xに対し、「いいかげんにせいよ、お前。おー、何を考えてるんかこりゃあ。ぶち殺そうかお前。調子に乗るなよ、お前。」などと声を荒げながら述べた。社員Xは、Y2からの暴行をうけるとともに、その後にY1会社から不当な対応を受け、これによって外傷後ストレス障害に罹患したなどと主張して、Y1及びY2に対し、不法行為による損害賠償を求めた。
判決のポイント
①Y2は、Xに対し、暴行を加えたというのであるから、その違法性は明らかであり、これによりXが被った損害を賠償すべき責任を負う。
②AはXに対し「いいかげんにせいよ、お前。おー、何考えてるんかこりゃあ。ぶち殺そうかお前。調子に乗るなよ、お前。」と声を荒げながら原告の生命、身体に対して害悪を加える趣旨を含む発言をしており、Aが、XがPTSDないし神経症である旨の診断を受け、担当医から、被告会社の関係者との面談、仕事の話をすることを控える旨告知されていたことを認識していたことからすれば、本件発言は違法であって、不法行為を構成するというべきである。
③Y2によるXに対する暴行がXの妄想性障害発症の端緒となっており、Aによる上記②の発言も当時のY1会社担当者との折衝状況と相まって、その症状に影響を及ぼしたことは否定し難く、本件事件及び本件発言とXの障害との間には相当因果関係があるというべきである。
④Y2によるXに対する暴行に起因する妄想性障害によるXの損害は、それぞれ独立する不法行為である本件事件におけるY2の暴行とその後のAの上記②の発言が順次競合したものといい得るから、かかる2個の不法行為は民法719条所定の共同不法行為に当たると解される。
⑤本件では、Xの障害の発生及びその持続には、不当な事柄に対して憤り、論理的に相手を問い詰めるという性格的傾向による影響が大きいことから、損害額合計から60%を減額するのが相当である。
コメント
基本的には、暴力を伴う事案は、不法行為にあたると解されており、また、その後の被害者への対応における会社担当者の暴言は、新たな不法行為を構成することになり、両者が共同不法行為として損害賠償責任を負う場合がある。
本件では、店長代行であるXが、従業員間の連絡事項等を記載する日誌に、店長であるY2の仕事上の不備を指摘する記載をするだけでなく、その横にY2に対し、「処理しておきましたが、どういうことですか?反省してください」と書き添えたことが、Y2にとって、さらし者にされたと感じるものであったとしても、暴力を用いることは違法との評価を免れるものではありません。
また本件では、Y2による暴力事件発生後に、XがY1社での勤務を休むにあたり、AはXに対し、診断書の提出や面談の実施を求めるもXはこれに応じないなどといった状況が生じており、そうした中で、XがAに対し、Y2による暴力事件についての報告書の開示を求め、2時間以上電話で会話した際に、AからXに対する発言が、違法と評価されたものです。会社担当者は、被害者とのやり取りに際して、行き違いが生じるようなことがあっても、冷静な対応が求められることに留意する必要があります。
著者プロフィール
荻谷 聡史(おぎや さとし)
安西法律事務所 弁護士
2008年 弁護士登録