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厚生労働省

「社内でハラスメント発生! 人事担当の方」【第5回】「労使がひとつになって取組むパワハラ対策」 ― ㈱タイヨー

【第5回】
労使がひとつになって取組むパワハラ対策 ― ㈱タイヨー

(株)タイヨー

UAゼンセン 全タイヨー労働組合 中央執行委員長 白石裕治
UAゼンセン 全タイヨー労働組合 中央執行書記長 山下暢志(やすし)
株式会社タイヨー 人事部 部長 松永忠
株式会社タイヨー 人事部 人事教育課 課長 池田行利

株式会社タイヨーでは「職場のパワーハラスメント」に労使がいっしょになって取組んでいます。その中心がUAゼンセン全タイヨー労働組合の白石委員長、山下書記長、人事部の松永部長、池田課長の4人。この労使が一体になったチームがタイヨーのパワハラ対策の要です。タイヨーは鹿児島・宮崎に94店舗を出店する地元では有数の生鮮食料品スーパーマーケット。従業員約8600人、うち正社員が1400人、フルタイム非正規400人、パートタイマー4400人、アルバイト2400人という大所帯です。一方、労働組合はUAゼンセン全タイヨー労働組合として結成38周年。組合員の範囲は、正社員、フルタイム非正規、パートタイマー(6h~7h)で組合員数は約1700人を数えます。労使が協力してパワハラ対策に乗り出したのは2005年のことで、もともと職人気質が強かった職場で、伝統的に行われていた「指導・躾」という教育が、社内で通らなくなったのがきっかけでした。

――教育と思っていたことが、パワハラの原因になっていた

UAゼンセン 全タイヨー労働組合 中央執行委員長 白石裕治 氏

UAゼンセン 全タイヨー労働組合
  中央執行委員長 白石裕治 氏

白石:パワハラに関する相談が社内で目立ち始めたのは2005年くらいからですね。昔から職人気質が強く、社内では日常的に「おまえはなにをしているんだ」「おまえはこんなこともできないのか」といった激しい言葉が飛び交っていました。それが社風であり社員教育や躾の一貫でした。ところが時代が変わって、今までのやり方が通らなくなりました。日常的な業務の中で「店長さんそれパワハラです」という声が、若い世代から聞こえてきたんです。価値観の変化というべきでしょうか。それから、ちょうどその時期、生産性を向上するために同じシフト内でのメンバー構成などが変わりました。これも会社の中の対人関係を変えたのかもしれません。いずれにせよ、これは何らかの対策が必要だということになりました。

山下:最初はみんな戸惑いましたね。いざ「変わろう」と店長や管理職に号令をかけても、いっこうに動いてくれない。そのうちに、どのように指導したらいいのかわかりません、という声が帰ってきました。突然今日から、怒鳴ってはいけない、教育の仕方を変えろ、といわれてもすぐにできるものではありません。

松永:パワハラは白黒の線引きがむずかしいものですから、具体的な対策が立てられませんでした。そのうちに今度は、これパワハラですと訴え出た方に、ちょっと問題があるのでは、というケースさえでてきました。こうなると管理職と社員、お互いが疑心暗鬼になってしまいますよね。スーパーマーケットはお客さま商売ですから、社内のムードの改善策が急務になりました。

――トップが意思を示すことで社内の空気が変わった

山下:そこで実施したのがパワハラを受けた従業員からの聞き取り調査。調査結果をまとめてみると、相談者の多くが、個別の事案の解決よりも会社全体の啓蒙活動を実行してほしいという声が多かったのです。そこで、会社側と相談して全タイヨー労働組合としてポスターを制作することにしました。ポスターの内容は、厚労省から出ているいろいろな資料を読み込んで、そこからキーワードを抜き出しました。出来上がったポスターは、全店の食堂に掲出し、白石と2人でポスターの内容をもとに指導に回りました。

株式会社タイヨー 人事部 部長 松永忠 氏

株式会社タイヨー
人事部 部長 松永忠 氏

白石:タイヨーがハラスメント対策をしっかりできるのは、社長が方針を示してくれるおかげですね。ことあるごとに職場環境の改善を言葉にしていますから、パワハラ問題への対応がスムーズに浸透したと思います。そのなかでも画期的だったのが、2007年の「タイヨーグッドカンパニー(よか企業)宣言」ですね。この宣言で ①すべての社員が自信と誇りを持って働く企業であり続ける ②法令・社会規範等を誠実に遵守する と全従業員へ向けて社長自らが発信しました。これによって会社側の全面的な理解が得られ、パワハラ対策は労使恊働の課題になりました。セクハラやパワハラは会社にとって、とても重要な問題です。こうやってトップが方針をはっきりと示すことが、社内の意識変革には欠かせないと思います。

池田:とはいえ、社内の意識改革は一朝一夕にできるものではありません。苦情があってパワハラをした本人のところへ行くと、自分がパワハラをやっているなんてまったく思っていないというケースが多かったですね。「○○店でこんなパワハラがあったから、気をつけてくださいね」と遠回しに警告しても他人事ですから、これには困りました。

山下:しかたがないので店長さんご本人に伝えると、やっとのことで自分だとわかる。ところが、これで一件落着かというとそうでもなくて、そのまま改善するケースもあれば、また再発する場合もありました。

白石:ポスターの効果もあって、組合の窓口への相談件数が月1~2回から、週に1~2回へと増えました。それはつまり見えなかったパワハラ問題がよりはっきり見えてきたということです。そこでポスターの反響をまとめ、さらに相談内容を精査して、一度ハラスメントの棚卸しをしたのです。すると各部門、店舗でさまざまケースのパワハラが起きていることがわかりました。そこで本格的な職場環境の改善が必要だということで、いろいろな会議を立ち上げ、会社側とも綿密に協議する場をつくりました。そんな過程の中で出てきたのが、現状をより正確に把握するためのアンケートの実施でした。

従業員を対象としたアンケートを実施

――全従業員を対象としたアンケートを実施しました

株式会社タイヨー 人事部 人事教育課 課長 池田 行利 氏

株式会社タイヨー
人事部 人事教育課 課長 池田 行利 氏

松永:アンケートの内容は、労使で協力して作成しました。ただアンケートの発信は、誰もが本音を自由に言えるようにと考え、会社からではなく組合から全従業員へ向けて行いました。もちろん氏名をはじめ店舗名や部門も無記名を可としました。実際のアンケートでは、パワハラについて16項目、セクハラについて15項目の質問を設け、そのほか店舗の問題点や気づいたことを自由に書き込めるスペースを設けました。

池田:組合と会社が本気で取組んでいることが伝わるように、「上司や先輩に対して悪意を感じるか?」「新人や後輩を辱め、おもしろがる風潮があるか?」「理不尽なことを要求されることがあるか?」などできるだけ具体的な質問項目を用意しました。

山下:これでいろいろなことが出てきたと思いますね。店長への批判がたくさんでてきましたし、店長には挨拶もしないという従業員がいることもわかりました。店長と従業員の間のパワハラだけでなく、バイヤーと販売担当、従業員同士、パート同士の間でもパワハラがあるということもわかりました。女性同士の諍いというのもありました。さらに驚いたのは本社と店舗の意識のちがいでした。店舗からすると本部スタッフは、店舗巡回時に店舗スタッフを上から目線で見ているという印象があることがわかったのです。

池田:本部が優越的な位置にいる、そんな風に現場からは見られていたのです。

白石:アンケートを実施してよかったことは、パワハラの現状がデータとしてわかったことではありません。挨拶や身だしなみの乱れ、本部巡回時の対応のわるさなど、会社全体としてのモラルが疲弊している実態がわかったことでした。とりわけ接客する、コミュニケーションのプロである従業員が、実は従業員同士できちんと挨拶ができていない、必要最小限の言葉しか交わさなくなっている、そんな現実に気づかされました。パワハラの問題は、実はパワハラにとどまらない大きな問題を内包していたのです。これを契機に、労使が1つのテーブルについて会社レベルの対応策の議論を重ねました。そこで導いた結論が、モラルの低下の根源は、コミュニケーション不足が原因ではないかという仮説でした。すべては従業員同士のコミュニケーションというパイプがつまっているから。そう考えて私たちは労使一体、全社一丸となった運動を立ち上げることにしたのです。

フレンドリーサービスへの取組み

松永:スタートしたのはフレンドリーサービスという全社レベルの取り組みです。お客さまへの挨拶は当然ですが、仲間である従業員同士、家族、取引先の皆さんともきちんと挨拶ができるように自分をもう一度鍛え直そうというシンプルな運動です。

池田:指導していただくコンサルタント会社といっしょに役員が率先してスタートしました。もちろん社長には先頭に立って運動をひっぱっていただいています。

フレンドリー握手

①フレンドリー握手

松永:写真(①)を見てください。始業前にコミュニケーションの一環として、お互いに、『○○さん、おはようございます。本日も一日よろしくお願いします』と言いながらフレンドリーに握手をします。これを毎朝続けています。

白石:フレンドリーサービス運動には、認定試験というのがあります。「60秒スマイル」「身だしなみチェック」「発声訓練」「すれ違い挨拶」「接客案内」など6項目の試験です。これに合格するとコンサルタント会社からゴールド認定がもらえるのです。もちろん社長も真先にゴールド認定を取得されました。社長が率先して皆より先に試験を受けたのです。このようにトップが先頭に立ってやっていくのがタイヨーの強みだと思いますね。

松永:もちろん本部でもこの運動を実施しています。朝礼のときに1分間握手を交わし、名前を呼んで「おはようございます」とやるのです。毎日、相手をかえることで、目に見えなかった部署の壁が消えていきます。不思議と普段は話さなかった人と、話しができるようになるのです。

山下:店頭での効果も上がってきていますね。お客さまから「笑顔が変わった、コミュニケーションが楽しくなった」といい評価をいただいています。それに従業員の間でも「店長と気軽に話しができるようになった」「お客さまと話すのがはずかしくなくなった」といった声を聞けるようになりました。

――これからもハラスメント対策の内容を充実したい

白石:現在、タイヨーには相談窓口が2つあります。1つは総務部にあるタイヨーホットライン委員会事務局、もうひとつが労働組合のハートフルネットです。相談窓口の案内ポスターも労使連名で出しています。社内のパワハラに対して労使2つの窓口をもつことで従業員の声をよりスムーズに吸い上げられるように心がけています。

松永:実際に起きたパワハラ問題の対処も、労使どちらが処理にあたった方がよいかを相談し、最良の方法を取るよう工夫しています。“あるべき姿”を表していますが、その社是を全従業員で共有し実践していきたいと考えています。

山下:全従業員に、労使双方の相談窓口を記載した「私たちのコンプライアンスカード」を配布しています。これには行動規範や、経営理念が書いてあり、「社員の人格・個性を尊重し、満足して働ける職場環境の確保に努めます」と明記してあります。このカードを携帯することで、従業員のロイヤルティが高まっていると考えています。

池田:心のケアについても労使でいっしょに受け皿を用意しています。EAPという従業員支援プログラムがあり、これは専門の病院と契約して、メンタル面で問題があった従業員のケアを行っています。パワハラやセクハラはもちろんですが、職場は毎日いろいろなことが起こる場所です。ふとしたことでそれがメンタルの病気を引き起こすこともあります。そんなとき大事なのが、気軽になんでも相談できる関係づくりではないかと考え実践しています。

白石:タイヨーのパワハラ対策は、起こったことへの対処だけでなくて、その事象の根源にある問題の解決が大切と考えています。パワハラ調査から見えてきたコミュニケーション不足という大きな課題。これを解決するために始めたフレンドリーサービス運動が、いま成果を上げつつあります。全従業員が同じ目標へ向って運動を展開することで、社内の風通しがよくなり、パワハラやセクハラが少なくなり、さらには本業の接客のレベルが上がっていくものと期待しています。これからもタイヨーでは、労使が一体となって、ハラスメントの根絶に取組んでいいきたいと考えています。

UAゼンセン 全タイヨー労働組合 中央執行書記長 山下暢志 氏

UAゼンセン 全タイヨー労働組合
中央執行書記長 山下暢志 氏

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